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フランス版一票の格差問題

 こんにちは。先週、憲法院内で憲法に関するシンポジウムが開かれたので、プログラムのごく一部だけですが、覗いてきました。憲法院は観光地スポットでもあるパレ・ロワイヤルの西側の一角に入っているのですが、建物内部まで入るのは初めてだったので、いい経験になりました。
conseil constitutionnel.jpg

 ところで、その憲法院は5月29日、2007年6月に行われた総選挙の適法性に関する所見を決定しました。
     http://www.conseil-constitutionnel.fr/decision/2008/20080529.htm
 その冒頭に取り上げられたのは、「一票の格差」に関する問題で、憲法院は是正を促す強いメッセージを発しています。6月11日付ル・モンド紙にこの件に関する特集が組まれているので、これも見ながら紹介したいと思います。
 フランスの下院議員選挙制度は、周知のように小選挙区2回投票制ですが、選挙区間の人口格差(フランスでも日本と同様に(登録有権者数ではなく)選挙区の人口を基準に議論するようです)は相当なものになっています。日本ではフランスを含む「欧米」ではこの問題がないかのような紹介もあるようですが、最も人口の多い選挙区は、ヴァル・ドワーズ県第2選挙区の188134人(1999年国勢調査による。以下同じ)、最も人口の少ない選挙区は、フランス本土ではロゼール県第2選挙区の34400人(海外自治体も含めれば、サンピエール・ミクロン選挙区の6300人)ということで、日本的に言えば、一票の格差は5.46倍(本土)に達する計算になります。なお、一議席当たりの人口は、105000人となっています。各選挙区の人口その他の情報が、下記サイトに出ています。
   http://fr.wikipedia.org/wiki/Circonscriptions_%C3%A9lectorales_%28France%29
 このような状況になった要因の1つは、議員の定数配分が1986年以来行われていないことにあります。選挙法典には、定数配分(というか、小選挙区なので選挙区割ですね)改定の後、2回目の国勢調査の結果に基づき、人口変動に従って選挙区割の改定を行うとされています(選挙法典L125条)が、実際にはこの通りにはなっていないようです。
 この時の選挙区割は1982年の国勢調査に基づくものですので、現在の規定は4半世紀前の人口分布に基づいていることになります。もっとも、この4半世紀のフランスでそこまで極端な人口移動があったとも思われないので、86年の選挙区割改定の時点で、すでにそれなりの格差があったのかもしれません(未確認。ご存知の方はご教示ください)。

 憲法院はすでに1986年7月2日の判決以来、人口を基本的な要素として選挙区割を行うことが憲法の要請である旨を述べていました。さらに、憲法院は2007年の大統領選挙及び総選挙に向けた所見(2005年7月7日)の中で、次期選挙の前に選挙区割是正が遺憾ながら困難な場合には、選挙後直ちに行うべきであるとも述べていました。また、2007年2月15日の判決では、下院に2つの議席を増設する法律の規定について、全面的な選挙区割改定を条件としてその合憲性を認めるとの判断を行っていました。今回の所見では、これらを引用して、改定は必須であると論結しました。

 他方、ル・モンド紙によれば、サルコジ大統領は、与党UMPの「ミスター選挙」と呼ばれるアラン・マルレックス(Alain Marleix)閣外相にこの問題のイニシアティヴを委ねました。マルレックス氏は、作業の原則を表明し、それによれば、各県に2議席づつ割り振ること、各県の人口が22万人を超える場合、基準となる人口11万人につき1議席を追加すること、必要であれば小郡(canton)の再編成も排除しないこと、などです。
 現在審議中の憲法改正案(下院で採決された段階のものhttp://www.senat.fr/leg/pjl07-365.html)には、上下両院の選挙区割や定数配分に関する法案について意見を述べる独立委員会の設置が盛り込まれています。
 なお、この改正案には、今まで上院にしか代表されていなかった国外在住のフランス人を下院にも代表させるという項目も含まれています。具体的には、日本の在外投票とは異なり、在外フランス人のための「選挙区」を設定されるということのようです。ただし、これまでも国外在住のフランス人は下院議員選挙に参加できなかったわけではなく、国内の市町村の選挙人名簿に登録されていれば、投票は可能であったようです。

 年末には最新の国勢調査の結果が判明するということですので、その頃から改定作業が本格化するのかもしれませんが、この種の作業が困難なのは日本だけではないでしょうから、どうなることやら。


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