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ツールドフランス最終日

 毎年開催されるものの中では世界最大のスポーツイベントとも言われる自転車レース、ツールドフランス(Tour de France)。96回目を迎える今年は、7月4日にモナコで第1ステージを皮切りに3週間、3459.5キロに渡って戦いが繰り広げられてきましたが、今日(26日)、パリ・シャンゼリゼで最終日を迎えました。コースは毎年変わるのですが、ゴールはシャンゼリゼと決まっています。前回見たのは10年以上前ですが、久しぶりに見に行ってみました。今回は本ブログ初、動画取材を敢行してみました。この映像は最初に選手たちが通過した際のもので、まだ大集団のままですが、この後飛び出す選手たちが出てきます。


 最終日はパリ南西モントロー・フォー・ヨンヌを13時過ぎに出発し、シャンゼリゼには16時40分頃到着し、8往復してコンコルド広場近くでゴールとなります。総合順位は前日までの結果ですでに確定的で、アルベルト・コンタドール選手(スペイン)が2回目の総合優勝、注目されたカムバックの元王者ランス・アームストロング選手(アメリカ)は優勝こそかなわないまでも総合3位ということになり、さすがです。こうした有力選手は、最終日は特に無理をしないのですが、それ以外の選手の中には、注目度の高いこの日のステージ優勝を狙ってしのぎを削ります。
 15時前頃からシャンゼリゼで待っていると、最初は全選手一団となってやってきましたが、すぐに先頭集団が飛び出しました。この集団は最初は7名でしたが、後に3名になりました。注目すべきは、日本の別府史之選手がこの先頭集団にずっと入っていたことです。最後は結局大集団に吸収されてしまいましたが、会場の放送も別府選手の名前を途中ずっと連呼していました。
 結局、2名の日本人選手は総合112位と129位(156人中)ということになりましたが、多数の日本のマスコミが取材に殺到したようで、大会関係者には強い印象を残したようです。ルモンド紙も期間中大きな記事を掲載し、日本のマスコミとファンの熱狂ぶりを伝えました。もっとも、日本特派員と協力して、日本の自転車競技事情(競輪が中心でロードレースは発展途上であることなど)をあわせて紹介しており、ただの面白おかしい記事でないところはさすがです。

【追記】頂いたコメントにお答えして、レースをリードする別府選手の動画を追加します。

 


「世界最悪の観光客」たちの声

 先日、ホテル予約サイトのエクスペディアから、エクスペディア・ ベスト・ツーリスト2009なるランキングが発表され、日本人がダントツで「世界最良の観光客」であるとされ、日本でも報道されたことと思います。他方、最下位はというと、これもややダントツでフランス人であることも、同時に報道されたかと思います。この結果はフランスでも大きく報道され、夜のメインのニュース番組でも取り上げられていました。
 もっとも、このランキングは、「世界各国のホテル従業員が、ホテルを訪れる旅行者と接した経験をもとに、各国の旅行者に対してどのような印象を抱いているかを収集することを目的としてます〔ママ〕」ということで、ホテルマンにとっての都合のよさを評価するものですから、「ベスト・ツーリスト」という表現は適切とはいえなさそうです。また、個別にも「あなたの国の言葉を、もっとも話そうと、もしくは学ぼうと努力するのは?しないのは?」という項目でアメリカ人が1位なのは、個人的な印象とは大きな乖離があります(「あなたの国の言葉」が英語なのかもしれませんが)。
 ということで、この調査は単なる話題提供の域を出ないかと思いますが、ワースト・ツーリストのレッテルを一昨年に続き(昨年はワースト3位)張られたフランス人はどう反応したのでしょうか。この件に関するフィガロ紙の記事(オンライン版)に寄せられた読者のコメントを幾つか見てみたいと思います。

 まず、当然ながら、反発の声があります。
 「アメリカ人や、イギリス人さえも英語の絶対的優位性を確信していて、その国の言葉で「こんにちは」ということもできない。イタリア人やスペイン人のいるところはどこでも、スタジアムにいるよりも大きな騒音が発生している。フランス人はといえば、訪問先の文化に好奇心を持ち、美術館を訪問する(イギリス人がまず聞くことはいつも、訪問先の街のパブの場所だ)。フランス人が外国で耐え難い振る舞いをしているということは全くなく、フランス人はもっと誇りを持つべきだ。」
 外国でフランス料理店を持っているという人。「フランス人は最悪ではない。イギリス人の方がもっとひどく、オーストラリア人とイタリア人が僅差で続く。あらゆる国籍の客を見るが、フランス人は最悪ではない。ただ、パリジャンだけは、少し急いでいるので、ここにはメトロはなく、ゆっくりしなさいと説明する必要がある。けちかどうかについては、イタリア人の方がひどい。幾つかの国に住んだことがあるが、このことはどこでも同じである。」

 他方で、むしろ賛成意見が目立つ印象です。
 「で?当然の結果でしょう。フランス人は日常生活でもそうなのだから、バカンス中に変わる訳ないと思います。」
 「私は外国ではスイス人のフリをする。この方がからまれないですむから。」「私は外国ではベルギー人という。」
 「私は外国ではペストを避けるようにフランス人観光客を避ける。彼らを見分けるのは簡単である。ひどい英語をしゃべり、多くは恐ろしいほど自民族中心的であり、自分たちの優越性を疑わない。旅することとは、自分自身の軸をずらすことだが、フランス人の中には、いつも教訓をたれたがる者がおり、「文明化の使命」(注:かつてフランス等欧米列強はこのフレーズを植民地主義の正当化に用いた)を捨てていない。」

 最後に、外国生活が長いという人のなかなか悲観的なコメントを。
 「要するに、観光はフランスの陥った状況の反映に過ぎないのです。つまり、発展途上国になりつつある国、文化(教養)が人々の間から失われていっている国、国際社会において政治的にも経済的にも重要性を失っている国です。観光客はその反映に過ぎません。」

 

 

 

 

 


ユネスコ訪問記

 機会があってユネスコ本部にお邪魔してきました。最近の日本では世界文化遺産、自然遺産で一般レベルでも有名な国際機関ですが、教育、科学、文化の発展と推進を目的とする国連の専門機関で、パリに本部が置かれています。エッフェル塔やアンヴァリッドから程近い閑静なエリアにあり、主な敷地は本館と別館の2箇所あるようです。

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 訪問先は文化局の日本人職員の方だったのですが、オフィスは別館のようで、まずはそちらへ。しばらく文化多様性条約などについて雑談をしていたのですが、ユネスコといえども国際政治の駆け引きの場となっていることや、他方で実際の活動においては、タリバンによるバーミヤン遺跡破壊や、カンボジア内戦におけるアンコール遺跡の荒廃など、しばしば無力でありながら、粘り強く活動を進めていることが分かり感服させられます。
 そのあと、徒歩10分ほどの本館の方を案内していただきました。というのは、文化の発展と推進を任務とするユネスコにふさわしく、本館敷地内には貴重な芸術作品が置かれており、ガイド付きツアーも開催されているほどなのです(ユネスコ日本政府代表部のサイトも参照)。

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 当日は高等教育に関する国際会議が開かれており、本館内は大勢の参加者で混雑していましたが、まずは10ヶ国語でユネスコ憲章前文の一節「戦争は人の心の中で生まれるものであるから、人の心の中に平和のとりでを築かなければならない(Les guerres prenant naissance dans l'esprit des hommes, c'est dans l'esprit des homme que doivent être élevées les défenses de la paix)。」が刻まれているモニュメントを見学。前例のない悲惨な戦渦とこの機関の誕生との間の抜き差しならない関係を示して印象的です。

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 その横には、イサム・ノグチ設計の日本庭園があります。桜の木が植えられており、春には美しい花が見られそうです。また、その近くには、長崎は浦上天主堂の天使の頭像が展示されています。これは奇跡的に原爆被害を免れたものだそうで、ユネスコ30周年を記念して長崎市から寄贈されました。
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 そのほか、屋外には安藤忠雄設計の「瞑想の空間」などがあり、日本ゆかりのものが目立ちます。
 内部に入ると、ピカソによる巨大な壁画「イカロスの墜落」があります。もっとも、ピカソは壁画の位置が気に入らず、署名をしなかったとされています。前述のように当日は国際会議が開かれており、昼食時とあって壁画の前にビュッフェサービスのカウンターがあったため、うまく写真に撮れなかったのが残念です。また、ジョアン・ミロの壁画もあるのですが、こちらは会議関係の展示の関係か、ディスプレイが前に設置されていました。

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シアンスポの入試とアファーマティブアクション(シアンスポ④)

 バカンスシーズンになりました。7月に入り、バカンスで南仏あたりに出かける人々で込み合う駅や渋滞する高速道路の様子を伝える報道がぐっと増えてきました。また、夏の大イベントであるトゥール・ド・フランスも、昨日から始まり、バカンス気分を盛り上げます。今年のトゥールは王者ランス・アームストロングの復帰が大きな話題ですが、日本でも日本人選手が久しぶりに2名も参加すると言うことで関心が高いのではないでしょうか。それにしても、今週の暑さは尋常ではなく、30度を越える日が続きました。もちろん関西や関東よりは気温的にはましなのですが、こちらではエアコンの普及度が著しく低いので、体に応える度合いはこちらの方がきついように思います。特に今週はスーツを着て出かけることが多かったのでなおさらです。
 とにかく、世の中の多くの人々はうきうきしているのですが、そうでもない人もいます。シアンスポの受験生もそうした人々に含まれるでしょう。実は、シアンスポの入試は8月24・25日に行われるので、受験生はきっと追い込みの勉強にかかっていると思われます。周知のように、フランスでは大学入試というものはないのですが、シアンスポのようなグランド・ゼコルでは選抜があり、書店に行くと対策本が並んでいます。
 シアンスポの学部レベルの入試には幾つか種類があるようで、①今年バカロレアを取得した志願者向け、②昨年取得した志願者向け、③外国の高校を卒業した志願者向け、そして④「優先的教育協定(Convention d'Education prioritaire)」に基づく選抜といったものです(ほかに、パリ第1、第4、第6大学とのダブル・ディグリープログラムなど)。 ①については、4つの科目(一般科目、20世紀史、外国語、資料に基づく試験(小論文のようなもの?))で試験が行われますが、各科目3時間か4時間の試験であり、かなりハードそうです。過去問も公開されていますが、例えば、2008年の一般科目の問題は、テキストの論評、または「科学は知識欲に応えるものか?(La science répond-elle au désir de savoir?)」という質問のいずれかを選択するというものでした。
 ところで、バカロレアでもこの種の出題はあるようですが、この種の試験問題は、日本の大学入試のように知識を問うものとは違い、特殊な対策、あるいは特殊な人文的教養が必要とされます。この点が、シアンスポのような教育機関の門戸をエリート層以外の人々に閉ざしてきた1つの原因であるとも言われてきました(ただし、試験である以上対策は可能なので、実際にはそこまで閉ざされているわけではないと思われます)。
 そこで、2001年から導入されたのが④の選抜方法で、要するに郊外の荒れた地区(行政的には「優先教育地区」という名称)にある高校と協定を結んで行われるものです(現在62校)。 
 具体的には、まず各高校内で選抜が行われます。この際には成績(校内選抜試験やバカロレア)もさることながら、知的好奇心や意欲も基準となっていることが注目されます。その後、シアンスポで面接が行われるのですが、ここでもやる気や批判精神といった点が評価されるとのことです。ですので、現在の成績というよりは将来の「伸びしろ」を見るということでしょうか。
 要するにアファーマティブアクション(フランスでは積極的差別(discrimination positive)という)ですが、フランスでは、人種等に基づく優遇措置は憲法上認められないというのが一般的見解ですので、出身高校の立地により実質的にこうした措置をとっているわけです。これについて、7月3日付ルモンド紙にパリ郊外移民地区にある高校を取材した特集記事があり、しょっちゅう学校をサボっていた学生が教師の援助を得てシアンスポに合格する話や、高校内に特別クラスを設置して一部の生徒だけを手厚くフォローすべきか、それとも学校全体を底上げするのにエネルギーを使うべきかで悩む教師たちの姿などが紹介されており、大変興味深いものです。


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