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法学教育の改革案

 ルアーブルでの講義も何とか終わり、パリでの講義も残すところ3回ということで、ようやく終わりが見えてきました。シアンスポは試験を含めれば6月末まであるようですが、大学の方はそろそろ学期末です(もっとも、今年はストが長らく続いたので、日程がずいぶんずれ込むところもあると思いますが)。気候も大変良くなり、カンヌ映画祭やテニスの全仏オープン(フランスでは会場の名をとって専ら「ロラン・ギャロス」と呼ばれる)など大イベントも続き、だんだんバカンスムードになってきたような気もします。
 ところで、最近、法に関する全国委員会(Conseil national du droit)内に設置された法学教育に関する作業グループの報告書の要約が法律雑誌(La Semaine Juridique, n. 21, actu., n. 264)に掲載されていました。この委員会は司法大臣と高等教育大臣のもとに昨年5月に設置されたもので、法学教育、法曹養成等について検討することを任務としています。今回の報告書は、大学における法学教育に関するものです。この雑誌は日本でも多くの大学図書館にあるので参照は容易かとは思いますが、ざっと紹介してみたいと思います。
 まず、法律家に必要な能力として、事実や規範からの構築能力・論証能力が重要であるとあり、そのため、学生には、法を訴訟の技術ないし科学というよりは決定の技術・科学として示すことが重要であるということが言われています。
 その上で、具体的な教育内容として、論証力・表現力を磨くためには文章作成の重要性が強調されています。そして、従来の教育で重視されてきた判例評釈について、確かに重要ではあるが、そこではすでになされた判断を分析するのが中心になり、新しい解決策を示すことにならないということで、今後は比重を落とすべきであるとされています。ただし、欧州司法裁判所やヨーロッパ人権裁判所の判例は、その内容の詳細さ(フランスの国内裁判所の判決は極めて短く、しばしば理由が分かりにくい)から、分析のための素材となりえるため、例外とすべきであるとされます。
 判例評釈に代わり、実務家の助力を得て実際に生起した事案の分析を重視すべきであるとされています。従来は、例えば少なくとも憲法では、試験で事例問題が出されることは少ないという話を聞いたことがあります。
 これらの点について、フランスの大学は極めてマスプロ的で、パリ第2大学には1000人以上はいる大教室があるほどですが、学部レベルの主要科目では、大教室での講義と少人数(20人程度)のゼミ(travaux dirigés(TD)という)がセットになっており、後者は博士課程在籍中あるいは博士号取得後間もないティーチングアシスタントが担当しています。こうしたアシスタントは一科目当たり数名おり、一人当たり数コマ担当しているようです。これは中々いい仕組みで、これによってマスプロ大学でも文章作成の演習が可能になるわけです。

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【パンテオン前のパリ第1・2大学校舎にあるボワソナード像】

 カリキュラムに関しては、固有の意味での法律科目に加え、法律家に必要な周辺科目を配置すべきであるとされています。経済・社会に関する歴史と現状、法律専門職及び企業の有様、法の経済分析、会計(特に財務書類の読解)などがあげられています。最後の会計に関しては、確かに重要で、私の司法修習生時代の記憶でも、多くの修習生が簿記の勉強をしていたように思います。また、語学(特に英語)の重要性も言われています。フランス人は英語は出来ないというイメージがあると思いますが、若い人はそうでもないように思います。特に、シアンスポの学生は皆さん英仏語は当たり前、3カ国語以上できる学生もざらにいるという感じです。
 そのほか、学部・修士・博士の各課程ごとの課題も挙げられていますが、ここでは博士課程に関する記述を紹介したいと思います。日本では法律の分野で博士過程に在籍しているのは研究者志望者にほぼ限られると思いますが、フランスでは必ずしもそうではありません。報告書はこの点に注目し、博士の質を落とさないことを前提に、研究者志望者とそれ以外の者との扱いを変えることを提案しています。フランスでも博士号取得者の就職は難しいものがあるようで、特に27歳を超えると就職状況は非常に悪化するということです。そこで、研究者志望者の場合、4・5年かけて400-500頁の博士論文の執筆を求めるのに対し、そうでない場合、3年で300頁程度のものにするといった具合です。また、伝統的な博士論文とは審査方法も変えることなども言われています。
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