SSブログ

フランス版「人体の不思議展」に対する禁止決定。

 このところ紛争やら訴訟の話題が多かったので、今回は別の報告をしようかと思っていたのですが、パリ大審裁判所(民事の第一審裁判所)による興味深い決定がなされたので、4月23日付ルモンド紙の記事によってその紹介をしたいと思います。日本にも「人体の不思議展」というのがあり、死体にプラスティネーションと呼ばれる特殊処理を施して展示するものがありますが、リヨンやマルセイユを経て、本年2月からパリはマドレーヌ教会近くの展示スペースでもこのような展覧会”Our body, a corps ouvert"が開催され、多くの観客で賑っておりました。今のところパンフレットがダウンロードできるようです(http://www.ourbodyacorpsouvert.com/depliant_ourbody.pdf)。

DSCN3461.JPG



 ところが、これに反対する2つの団体(名称からすると、1つは中国支援関係の団体でもう1つは死刑反対の団体なのでしょうか)が、裁判所に対し、差止めの仮処分申請を行いました。本展覧会で用いられている人体は、中国の死刑囚のものであるという疑いがあるということです。そもそも、展覧会の開催には、もともと紆余曲折があったようで、科学関係の博物館等ではなく、民間の一般の展示スペースで開催されたのも、博物館等が受入を拒否したからだといいます。さらに、アメリカで以前開催された際には胎児の展示もあったようですが、フランスではそれはないとのことです。
 法律的には、人体の不可侵原理を定める民法典16-1条を受けて裁判官に差止め等の権限を認める同法16-2条に依拠した申立のようです。同条は、「裁判官は、人体(死後も含む)に対する違法な侵害または人体の要素もしくは派生物に対する違法な行為を防止しまたは停止されるために適当なあらゆる措置を命じることができる」として、裁判官に極めて広い権限を認めるものです。
 主催者は、教育目的を強調しましたが、4月21日の決定では営利目的を認定し、市民団体の申立を認めました。決定は、まず、24時間以内に展覧会を中止するよう命じ、さらに、24時間以内に、展示物の目録を作成し、当局の求めに応じて提出できるよう展示物を供託することを命じています。
 主催者は上訴したとのことですが、会場は拙宅から近いのでちょっと行ってみたところ、すでに閉鎖されており、入り口には裁判所の命令により中止した旨の告知が掲示されておりました。

DSCN3463.JPG


 この種の展覧会には、日本でも反対運動が行われているようですが、訴訟によって中止させることは不可能かと思われます。他方、フランスでは、人間の尊厳原理に基づく差止めが可能です。90年代には、大道芸としての「小人投げゲーム」(小人症の人を投げる興行)が、本人は同意していたにもかかわらずこの原理に基づいて禁止されたのが有名ですが、テロで殺害された県知事の事件直後の写真のメディアでの公表が違法とされた事件もあったように記憶しています。
 しかし、人間の尊厳や人体の不可侵といったきわめて抽象的な原理から直ちに具体的な帰結を引き出そうとするのは中々にリスキーな試みのように思われます。かつては、反道徳的であることを理由として差止め等が認められることがあったのですが、近年ではそれはさすがに廃れています。しかし、人間の尊厳原理の拡大解釈がそれに変わる機能を果たす危険があるかもしれません。ルモンド紙の記事でも、18世紀フランスの解剖学者オノレ・フラゴナールの「ヨハネの黙示録の騎士」等の作品はどうなるのかという指摘がなされています。http://musee.vet-alfort.fr/Site_Fr/index2.htm

人気ブログランキングへ


nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(0) 

nice! 0

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。