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博士への道

 先日、憲法専攻の友人の博士論文(thèse)の口頭試問(soutenance)があったので、傍聴に行ってきました。フランスの博士論文口頭試問は一般公開されるのですが、夏のバカンス前に提出した博士論文の口頭試問がこの時期に集中するようで、大学の掲示板には口頭試問開催の告知がたくさん掲示されています。日本の法学系大学院で博士論文を書くのは研究者志望の方にほとんど限られると思いますが、フランスではそのようなことはないようで、実際、パリ第2大学(主として法学系の大学で、総合大学ではありません)だけでも1500名の博士課程登録者がいるということです。
 法学の博士論文口頭試問の様子については、明治学院大学の蛯原先生がモンプリエ大学での様子を紹介されています(http://www.meijigakuin.ac.jp/~cls/joho/hon/no40.htm)が、今回傍聴したのはパリ第2大学の口頭試問の様子です。
 モンプリエでは家族や友人の出席が多いとのことですが、パリでも同様で、20名ほどの傍聴者が来場していました。後で話をしたところでは、家族はもちろん、友人の中にも法律とは無関係の方がおられたようで、何時間もよくわからない話を聞くのは大変でしょうと聞いたところ、まあそうだけど分かるところもあるから、とやさしい返事でした。ほかに、掲示で見て来られているらしい方もわずかながらおられました。
 いかにもフランスらしく、予定時間から30分以上遅れて、指導教授のほか、いずれも憲法学における学内外の著名教授3名の審査員が登場しました。審査員の先生方はいずれも教授の正装たるガウン姿でしたが、蛯原先生のときとは異なり、会場の教室が殺風景な通常の教室でしたので、かなり浮いて見えます。論文のテーマの関係で、イタリアの(多分)著名な憲法教授が招かれており、この先生が審査委員長を努められます。
 モンプリエの場合と同様、まず、受審者が15分ほど論文の趣旨や問題意識を述べます。原稿はあるようですが、フランス人がしばしばそうであるように、棒読みではなく堂々とよどみなく話ができるところには感心させられます。その後、審査員の教授が一人一人、20分くらいずつコメント及び質問を行い、受審者が回答していくという順序で審査は進んでいきます。コメントは、大体賛辞から始まり、内容に対するコメントに負けず劣らず、形式(構成等)に対する言及が多いのがフランス的です。
 今回は全体的に大変なごやかなムードであったのですが、後で聞くと、これは論文自体の評価が高かったからのようで、傍聴者で数年前に同じく口頭試問を受けた方の場合は、もっと厳しい雰囲気だったとのことです。余談ながら、偶然にも、この方はこの時ちょうど読もうと思っていた博士論文の著者で、その論文の電子版を頂いた上、今は今年の憲法改正で大きな影響を受けるといわれているオンブズマン(メディアトゥール)に勤務されているということで、色々ご教示を受け、大変有益でした。
 さて、コメント・質問と回答が一通り終わると、傍聴者は退出を命じられ、廊下で評議の結果を待ちます。5分ほどで再び呼び込まれ、結果が告知されます。評価はA,B,Cのような単純なものではなく、蛯原先生が紹介されているように、《 mention honorable 》、《 mention très honorable 》、《 mention très honorable avec les félicitations du jury 》(後のものほど評価が高い)というような形で告知されます。ただ、やはり後で聞いたところでは、この3段階だけではなく、もう少し細分化されるようです。今回の評価は、最上級ではなかったもののそれに近い高評価で、嬉しい結果でした。
 その後、近所のホテルのパーティスペースで祝賀会が開かれたのですが、このような場合、周りがこうした場をセッティングするのだと思いますが、フランスだと本人(および家族)がこのようなものを準備するのだそうで、面白いですね。審査員の先生方も顔を出され、話が弾んでいました。

(後日補足(08年12月20日)
 成績評価ですが、リール第2大学(法学部)のサイトに説明がありました。
http://edoctorale74.univ-lille2.fr/index.php?id=686&L=0
 それによれば、審査員は審査の結果、上記のような三段階で評価を行うわけですが、同時に次の三つの点にも判断を行うものとされています。
 ・ 当該論文は紙媒体又はオンラインで複製してもよいか?
 ・ 当該論文は手を加えず複製してもよいか、または、審査員のコメントを考慮するのを待つべきか?
 ・ 当該論文は博士論文賞への応募が許されるか?
 最後の点について補足ですが、フランスでは様々な公私の団体が各団体の活動に関する博士論文に対する賞を設けており、その出版を助成しています。憲法分野では、少し見ただけでも、例えば上院が二院制、地方自治体又は政治・議会活動に関する賞を設けているほか、憲法院も博士論文賞を設けていますが、様々な機関が学部生・大学院生の研修生を受け入れていることと並び、これはすばらしいことだと思います。


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