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たかが統計、でもないようで。

 今週は急に冷え込んできまして、最低気温がマイナス、という予報も見られるようになりました。そのせいか風邪をひいてしまい、週の半分くらいが無駄になってしまいました。

 公共交通機関のストライキが続いています。10月中旬に続いて、11月14日から大規模なストが始まりまして、今日(11月17日)もまだ続いています。個人的には、メトロやバスはあまり使わず、主に貸し自転車(Vélib)を利用しているので、あまり影響はないのですが、ニュースを見ていると、国鉄の郊外線(RER)の利用者は大いに影響を受けているようです。そもそも、一連のストライキは、公共交通機関の職員の年金制度の特例(払込期間が一般より2.5年短い37.5年)の廃止に反対してのもので、要は特権の擁護です。ある世論調査によれば、フランス人の55%が今回のストは不当であると回答しており、ストに好意的な国民性に変化が見られるという解説(例えば、11月17日付産経新聞(東京本社版)7面)もあるところです。それにしても、この種のストが日本で起これば、反応はかなり違ったものとなると思われます。

近所の駅は、入り口も閉鎖されてしまいました(前回のスト(10月18日)の際の写真)

 ちなみに、産経新聞はネットで全紙面が見られる唯一の全国紙(月額315円)であり、外国に来てみると大変有り難い存在です。同紙の基本的な方向性や、特に外部寄稿者の見解は、原則として賛同できないわけですが、個々の記者は伸び伸びと執筆している感があります。同紙のパリ支局長の方は、数十年来パリ支局におられるようで、いつも興味深い記事を執筆されています。同紙は全国紙のなかでも突出してフランス関係の記事が多いのではないでしょうか。機会があればお目にかかってみてみたいものです。

 ところで、憲法研究者の端くれとして興味深い最近の出来事は、バラデュール元首相を代表とする諮問委員会が大統領に対して、第五共和制改革に関する詳細な提案を行ったこと(10月29日)と、新移民法に関する憲法院判決(11月15日)でしょう。前者については、スト問題もあってあまり動きが見られないようですが、そのうち何かあるでしょうから、またそのうちご紹介したいと思います(実は読むのが面倒くさい)。

 後者の新移民法については、シラク前大統領(ジスカール・デスタン元大統領も)が審理に参加した点も報道されましたが、法的には、移民の家族呼び寄せの可否の審査の際にDNA検査を行う権限を行政機関に認める規定と、統計調査において人種や出身の調査を解禁する規定の合憲性が注目を集めました。
 DNA検査については、既存の法の枠組みにおける証明手段に関わるもので、特に新しい区別を設けるものではないこと、本人の申し出に基づいて行うこと、あくまで戸籍が不備な場合の措置にすぎないこと、などから平等原理にも人間の尊厳原理にも反しないと判断されました。
 もっとも、フランス独特の観念が現れているのは統計調査に関する判断の方でしょう。従来、個人情報保護法(1978年1月6日法)では、人種・宗教に関する個人情報の収集を原則として禁止していました。したがって、フランスには、アメリカのように白人何パーセント、黒人何パーセントといった統計は存在せず、「外国人の親を持つ国民の数」といった間接的な統計に基づいてしか移民の現状を把握することができなかったわけです。今回の規定は、出身の多様性、差別、統合に関する措置の研究目的の場合について、上記のような禁止に対する例外を設けようというものでした。
 ところが、フランス憲法1条は、「フランスは、不可分、非宗教的、民主的、社会的な共和国である。フランスは、出身、人種及び宗教の区別なく全ての市民の法律の前の平等を確保する」としていますが、憲法院は今回の規定をこの憲法1条に違反するとしたわけです。人種による区別を行って特定人種について別個の取扱いを行うことだけではなく、人種を区別の指標に用いること自体が平等に反するとするもののようですが、社会には人種差別が蔓延している現実との関係で、難しい問題ですね。
 なお、このような判断は、半ば予想されていたもので、今回の法案について意見を述べたCNIL(個人情報保護を管轄する独立行政委員会)は、人種以外の客観的指標(親の国籍や出生地)を利用すべきだとしていましたが、法案には反映されなかったという経緯があります。
 たかが統計、というわけには行かないようです。


 

 

 


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